美しい料理人魂をここに見た。
料理のレシピが鍵となる作品である。作者の田中経一さんは料理番組『料理の鉄人』の演出を手がけたいわゆるかなりの「料理通」である。
料理をテーマとした小説や漫画は特別珍しいものではないのだが、
この作品では料理に関するうんちくは意外と披露されない。
佐々木充という麒麟の舌を持つ料理人が、昔の大掛かりなレシピを探し出し、再現するよう命じられる。
探偵のようにあちらこちらへと人を訪ねるのだが、最後まで
なぜレシピが必要なのかは知らされない。
そして探りを入れていくうちに恐ろしい陰謀が含まれていたことが判明する。
レシピを巡って人間関係が築かれ、あるいは壊されていく様が描かれるのだが、
その裏には料理人としての、人間としての心意気を孕んでいたことが明かされたとき、「なるほどなあ」とため息を漏らしてしまった。
出来すぎたストーリーのようにも感じられるが、これは映像化しやすい作品だと思った。映画と小説の内容が違うことはよくあることだが、この作品は内容を大衆用に変える必要はない。既に大衆向けに仕上がっている。
これは「つまらない」ことを示した皮肉ではない。単純に小説の1つとして感動的なものであったし、11月3日に公開される映画を見たいと素直に思ったのだ。
映画化されるから原作は読まなくてもいいや・・・なんて思わずに。
すごく読みやすい文章で書かれているので、読書に抵抗のある方でも是非お勧めする。「休日に予定がない!」と嘆くのであれば近くの本屋に足を運んで
『ラストレシピ 麒麟の舌の記憶』を手に取ったほうがいい。